はじめに
こんにちは、misw54代midi研究会新会長のタニシ(@Tanishi_music)です。今回は、ボーカロイドでラップをする曲、いわゆる「ボカラップ」を作りたいと思ったので、その進捗過程を記事にしよう、という感じです。VOCALOIDやSynthesizer Vに興味のある方はぜひ最後まで見ていただけると嬉しいです。
完成品はこちら!!!
記事の最後だとDLしてから見返す等、二度手間になる場合が想定されるので、最初に楽曲データを配布します。こちらのリンクから是非ダウンロードしてください。
配布内容
・ボイロ革命.wav ~ 曲の完成版です。
・voiRevo_inst.wav ~ 曲のインストです。
・voiRevo_inst+kariuta ~ 曲のインストに仮歌を付けたものです。(カラオケ気分)
・voiRevo_yuzukizu.vsqx ~ 結月ゆかり、紲星あかりパートのvsqxファイルです。VOCALOIDソフトに読み込むと、ピッチなどのパラメータ―の様子も見たりいじったりできます。
・voiRevo_synthV.svp ~ 琴葉姉妹のデータです。Synthesizer Vで開くことができます。
・ust(フォルダ) ~ 琴葉姉妹のustデータが入っています。UTAUなどで開くことができます。
初期状態
まだDAW上は空白な状況ですが、これくらいの準備が整っています。
ベース&ドラム&ボーカル前半部分
ラップってもしかしたらビートありきでラップが生まれるものかもしれないですが、全部自分で作るのでそういうのは関係ないですね。
というわけで、ビートの基本部分であるベースとドラムを打ち込み、ボーカルのベタ打ちまで済ませました。
このままでは、とてもラップと呼べるものではありませんね。ここから、ボーカルを作り込んでいきます。
まず最初にいじるのは発音、リズムの部分です。ノートの発音記号のところに [ _0 ]を付け足すと、その音が無声音になります。フレーズの末尾や英語の部分でこれを利用して、発音を自然にしていきます。
英語の発音については、例を挙げると、
「like a death game」→「らいか です(0) げむ(0)」
「It's my steelo」→「いつ(0) ま すてぃーろ」
「RINg out ON the world」→「りん が おん ざ うわあるどぅ(0)」
こんな感じです。発音とリズムが調整できたら、音程をいじっていきます (地獄) 。
ところで、、、
ラップの音程ってどうやるの?
当然この問題が立ちはだかります。試行錯誤の結果、私はピッチ編集プラグイン「melodyne」を使用することにしました。とはいっても、ボカロのInsertに直接挿したわけではなく、仮歌トラックに挿して、音程を可視化するために使いました。さすがに仮歌録らずに音程調整するのは無謀だと思うので、仮歌は録りましょう。
さて、仮歌をmelodyneに読み込ませるとこうなりました。ピッチラインが表示されるので、これを参考にボカロの方でピッチをいじっていきます。
はい、地獄です。ちなみにピッチベンドセンシティビティ(PBS)は6です。何回も試行錯誤をして、何とか許容範囲まで持っていきました。多分聞いた方が理解が早いので、この見出しの最後に載せます。ラップにおいて特に重要だと思ったことは、正しい音程だと不自然になりやすいということです。ラップ中のノートが正しい音程に位置していると、どうにも耳がラップを"歌"と誤認してしまうのか納得がいかなかったので、サビの部分も複数人で歌っても濁らない程度にずらしました。
お次は、細かいパラメータを見ていきましょう。
ブレシネス
ラップは息量が多めなイメージなので、ブレシネスをカ行など息を吐きだすところをピンポイントで上げていきます。
オープニング
オープニングというパラメータです。ざっくり説明すると、"滑舌の良さ"です。全部はっきり発音していると、不自然さを感じてしまうので、画像のようにフレーズの後ろになるほど値を下げていくとそれっぽくなる感じがしました。
そんなこんなで、ゆづきずパートが一通り調整できた状態がこちらになります。
ここからダブリングとかエフェクトを挿していくのですが、一旦置いておきましょう。
琴葉姉妹パート+ギター
さて、次は琴葉姉妹パートです。ここからはSynthesizer V を弄っていきます。やることはVOCAROIDとそんなに変わらないです。こちらはピッチラインの表示がすぐできてパラメータの調整がしやすかったですね。ただ、発音タイミングに関しては、VOCALOIDの方がベロシティですぐに調整できるのに対し、SynthVは音素パラメータを調整する形だったので、SynthVの方が少し手間です。(私が慣れてないだけだったらごめんなさい)
最初に行う作業は調声です。その理由は、琴葉姉妹の歌声データベースの特徴にあります。実は、琴葉姉妹の歌声データベースは「琴葉茜・葵」一つしかないんです! これは購入当時の私も驚きました。つまりどういうことかというと、琴葉茜・琴葉葵の両方が歌う曲や、茜と葵で違いを出したいという場合は、SynthVに標準装備されている調声パラメータを用いて違いを出さなければならない、ということです。ここがゆづきずパートにはなかった壁ですね。自分好みに調声しましょう。
調声方法ですが、今回は4人共通で歌うサビの部分はゆかり&あかりパートで打ち込んでいるので、そのMIDIデータを利用します。(曲が完成した後の画像なので、ピッチ編集などがすでにされています)
↑が茜のパラメータ(画像右部分)です。テンションが高めでブレスが低めです。明るいはっきりとした声を目指しました。
↑が葵のパラメータです。茜に対し、テンションを下げて、ブレスを上げています。ささやくような声を目指しました。調整しているのは「パラメータ」の部分のみですが、よく画像下部分を見比べるとピッチベンドを、葵の方をやや低めに調整しています。調声が終わり、納得がいったらプリセット保存をしましょう。別の曲で歌わせるときに調声が楽になります。
ピッチベンドについてです。画像は茜の最初の部分ですが、MIDIで ある程度の抑揚をつけたあと、ピッチベンドを使いつつさらに調整を重ねています。
これは私がSynthVに不慣れなせいでできなかったことですが、SynthVには有声・無声音というパラメータ―が存在しており、これを利用すれば簡単に無声音を発声させられます。作業中はこのパラメータの存在に全く気が付かなかったので、これを使えばもう少し楽にクオリティを上げられたでしょう。
さらに、SynthVでは音声の書き出し時に息成分を分けて出力することができます。これにより、細かな調声が可能となり、より人間らしいラップに近づくと思うのですが、時間的な問題もあり、今回はいじることはありませんでした。
Tips: 茜と葵を同時に歌わせる場合、2人とも同じデータベースから調声しているせいか、音がぶつかりやすいです。特にロングトーンなどはその影響を大きく感じ、別々に聴いて大丈夫でも、同時に流すと変な感じになりやすいです。これを回避するために、左右にパンをずらしたり、ハモリパートは2人共通にしたりなどの工夫をしましょう。
さて、琴葉姉妹パートがゆづきずパートと同じくらいの状態になったので、instにギターを追加します。追加して、イントロ、間奏など全体像も書いたものがコチラです。完成品から抜き出しているので、前の状態より音圧が上がっていて、instの調整も終わった状態になっています。
ゆづきずパートは0:17~、 琴葉姉妹パートは1:30~
ギターの音作りは毎回かなり苦労しているんですが、なんとか落としどころが見つかり、曲の雰囲気もだいぶ固まってきました。
Instで味を付ける
ギターも追加して、曲の核は出来上がってきましたが、このままではキャラが変わったときに雰囲気が変わらず味気がないですね。マンネリ化を抑えるために、最初のゆかりパートはこのままでも良いとして、それより後のパートでは曲に変化を加える必要があります。配布データの中にInst音源もありますので、そちらを聴きながら確認してみてください。
まずはあかりパートです。あかりちゃんは元気で明るい感じなので、高音域の綺麗めな音のキーボードを追加しました。アルペジオっぽい動きをするので、AutoPanなどのプラグインで周期的にPanが左右に移動するようにしました。
次に茜パートです。茜ちゃんは関西弁のナニワなイメージなので、トランペットを追加しました。また、Delayプラグインを使って、フレーズの最後がやまびこみたいな感じになるようにしました。
次は葵パートです。ここはボーカル側をいじくって変化をつけようと考えていたので、新しい楽器を追加することはせず、あかりパートのキーボードと茜パートのトランペットの両方を使用しました。最後のサビも、一回目との違いをつけ、ラストスパート感を出すために葵パートで使用した楽器をそのまま引き継いでいます。
ラップの最後は爆発でかっこよく終わりたかったので、それっぽい音源をいくつか用意してド派手にしました。余談ですが、この音を入れた時、タイミングも音量も調整しないまま再生してしまい、心臓と耳がイカレました。作業中の音量には気をつけましょう......
アオイチャーン!
茜パートでは、
「可愛いのは?」「アオイチャーン!」
「ほんでその次は?」「アオイチャーン!」
「なんでや!」
という、リスナーとの掛け合い(妄想)パートを用意しています。作業中にリスナーは自分しかいないので、「アオイチャーン!」は私一人の声から作りました。
今回は声色を変えた三種類(野太め、普通、裏声)の声を録って、VocalSynthを使ったり、ダブリングをしたりして、それっぽくなるようにしました。主張してほしくないし、汚くなってほしくもないので、ローカットを500Hzくらいからがっつりかけてリバーブも追加でかけています。初めての試みだったのでこの部分は改善の余地がまだまだありそうです。
ボーカルの仕上げ~完成
さあ、いよいよ完成も目前になってきました。次は、ボーカルにエフェクトを追加していきます。
ダブリング
ダブリングとは、同じフレーズを重ね録りして、歌に厚みを持たせる、というものですが、ボーカロイド等の合成音声で重ね録りは難しい(ダブリングで効果を得られにくい)ので、ダブリング効果を得られるエフェクトを挿します。
このようにダブリング用のFXチャンネルをそれぞれのボーカルで用意して、オートメーションでダブリングしたい部分でゲインを調整します。
ゆかりさんのダブリングは主にこんな感じで作っています。他のボーカルについてもほとんど同じです。代替プラグインはいっぱいあるし、ダブリング効果が得られる方法はほかにもあると思います。
メインボーカルのプラグインですが、よく見たらiZotopeの「Nectar 3」を挿しただけでした。iZotopeは神。
ミキシング&マスタリング
iZotopeの「Ozone 9」「Neutron 3」等を使用しました。iZotopeは神。
最後に
以上が「ボイロ革命」の制作過程でした!いかがだったでしょうか?曲を書いた感想ですが、私自身も初の試みとなる曲でしたので、とても楽しかったと同時に改善点もまだまだあり、とても良い経験でした。キャラクター性のあるリリックを書けたのも楽しかったです。ボカラップ、もっと書けるようになりたいですね。
曲は現在(2020/12/22)soundcloudやニコニコ動画にアップロードしていますので是非そちらでも聴いてください!
実はボカコレ2020冬に参加するためにイラスト含め動画を5日で完成させたのですが、その話ははまた機会があればということで。
明日は53代美少女に敬意を払おう研究会のうでメガネ(柳田)さんの記事です。お楽しみに!