こんばんは、51代のクランクと申します。
早稲田祭2018において、「Sister Mosquito!」というVRゲームが展示されました。
この企画において僕はプランナーという立場で企画に参加したので、その時考えたことについて書いていきたいと思います。ただし最初からゲームを組み立てていったわけではなく、途中からアドバイザーとして口を出すというカタチでした。
ゲームを面白くするにはどうしたらいいんでしょうか。
最初にプランニングの基本的な考え方、次に実際の企画で僕がやったことの順に書いていきます。
ちなみにSlackでの役職名は「スーパーエグゼクティブアドバイザー兼お茶汲み」でした。途中で「兼イキりオタク」が追加されました。
なお筆者はあくまで夏にゲームプランナーインターンに参加してきただけの素人です。今回は運良くいい感じのゲームになるように貢献できたという例を書きますが、これを真似すれば絶対に面白いゲームが作れるという保証はしません。ご了承ください。
プランニングは発想力?
さて「ゲームプランナー」と聞いて、皆さんはどういったイメージをお持ちでしょうか。
半年くらい前までの僕はこういう風にぼんやり考えていました。
面白い世界観やシステムを考える人だ
すごいアイディアマンで、楽しいゲームをポンポン思いつくんだろう
※職業としての「ゲームプランナー」にはたくさんの仕事があり、スケジュール管理やメンバーへのタスク振りなどが含まれる定義もあります。この記事内では「ゲームの内容を考える」という役割に絞ってこの単語を用います。
しかし残念ながら「面白そうな思いつき」だけで面白いゲームは作れません。
ゲームにはそれを通してプレイヤーにどうなって欲しいのか、どんな体験をして欲しいのかという目標があり、それを達成するために「世界観」「キャラクター」「システム」「音」、そして「デバイス」といったものが決まっていきます。
例として、勇者として魔王を倒すゲームを作るときをイメージしてください。
主人公のキャラクターをデザインするにあたって、会議の中で候補が2つ出ました。
- 黒髪で身長体重は標準、剣術が得意だけどせいぜい町一番といった程度
- 金髪碧眼の超イケメン、身長は190cmでゴリゴリマッチョ、剣術も魔法も誰も敵わないほど強い
企画段階の話し合いでは開発チーム全員がノリノリで意見を出し合い、どちらも魅力的なキャラクターになりそうです。どう選ぶべきでしょうか。
なんとなく有名RPGっぽいものを作りたいから前者、もしくはイラスト担当がイケメンを描きたいから後者、とはならないでしょう。
勇者になりきって少しずつ成長していく体験をさせるゲームには前者、最強スーパーヒーローになって無双する体験をさせるゲームには後者の主人公が適していると考えられます。
このように、ゲームの中心には「どんな体験をさせたいか」があります。ここがしっかりしていれば、前述の例のように迷ったときにしっかりと根拠を持った決定をすることができます。
逆にプレイヤーにさせたい体験がブレていると、それぞれの要素がちぐはぐなものになります。「キャラクターは平凡な設定なのになんで最初からこんなカッコいいアクション持ってるんだ…?ストーリーとシステム合ってる?」みたいな感じです。
プランナーに発想力が不要であるということではありません。
発想力はもちろん大切ですが、それを単なる思いつきとして使うのではなく、「体験」から根拠付けて外側のもの(キャラやシステムなど)を考えていくのです。
このゲーム動いてるけどなんか面白くないな……
プログラムを書き、イラストなどの素材を適用し、音楽をつけ、いざゲーム的なものが出来たとします。
しかし、想定した仕様どおりに動いてはいるものの、今ひとつ思ったような楽しさがないというケースです。
今回の企画「Sister Mosquito!」は、僕が途中参加した段階でこれに近い状態でした。
ここで「Sister Mosquito!」について、簡単にご説明します。こちらが公式デモ動画です。
なお画面は僕が修正案などを出す前のモノです。また、蚊の上に数字でHPが表示されているのはデバッグのためです。ご了承ください。
どんなゲームかざっくり文字にすると、
- HTC Viveを用いたVRFPS
- 目の前に飛んでいる大きな蚊を攻撃し、撃ち落とすor捕獲することが目標
- 武器は数種類あり、使い分けが楽しい(ようにしたい)
……という感じです。
この時挙がった問題点を一言でまとめると、「蚊に向けてひたすらトリガーをカチカチ連打するのが疲れる&楽しくない」です。
当初予定されていたゲームとしては一通り仕様を満たして動作しているのにです。
デモ動画はαテスト(ゲームがとりあえず動く段階まで完成したときの試遊会)の様子でこの時僕も初めてこのゲームをプレイしましたが、その時に意見を出したホワイトボードがこちらです。
ゲームに限ったことではありませんが、コンテンツの中心には前述の通り「体験」があります。
ホワイトボードは会議の場におけるザックリとした説明に用いたためかなり抽象的な表現となっていますが、僕たち開発チームでは「一般の人たち(普段VR機器に触れる機会が少ない)がVR体験を分かりやすく楽しめる」ということをこのゲームのキモと捉えました。
また、VRならではの特徴としてメリットとデメリットも挙げました。
○操作が単純である(左右スティックなどはなく、使うのは右手のトリガーだけ)
○360度使える
△複雑なアクションはできない
△酔う可能性がある
これらの要素を考慮して実現可能性を含めて企画長・エンジニア勢と協議しつつ、僕が出した案のひとつがこちらです。
ゲームのステージ(部屋)を俯瞰した図だと思ってください。要するに、プレイヤーを部屋の真ん中に立たせるというアイディアです。
前述のVRの特徴のうち、僕は一番の強みを「360度の視点を使える」点だと考えました。α版では蚊が自分の目の前をふらふら動いているだけで実質ゲームセンターのガンシューティングと大差ないと感じたので、その課題を解決するべく出たのがこのアイディアです。
ターゲットが自分の前後左右上下どこにいるのかを首を回して探し、銃を向け、撃つ。実際に首を回して自分の周りを探すというアクションは、VRならではと言えるでしょう。
また、この配置にしたことで、蚊がプレイヤーの目の前を通過、もしくは迫ってくるといった動きをするようになりました。人間は(というか動物は?)目の前に急に何か飛んできたらビビります。それを再現できたことで、より臨場感が高まりました。
このゲームをプレイする人を横から見ていると、グルグルとその場で回転しながら必死に右手を伸ばしてトリガーを連打し、たまに顔面に飛んでくる蚊にビビって反射的に回避行動をとっていました。
このゲーム、VRっぽい!
……というような過程を踏み、ゲームはより楽しいものに改善されました。
開発しているゲームがふわふわしてしまったときは(理想は開発前から固まっていることですが、形にならないと見えない部分もあると思います)
- 自分でとにかくプレイする
- 人のプレイしている様子を観察して挙動を見る・意見を聞く
- 目指すものと似た体験を得られるゲームがもしあれば、何が面白かったのか思い出す(「爽快感」「達成感」といったものです)
- その体験に違うアプローチで近づけることが出来ないかを探る
といった点が大切なのかなと思います。
4に関しては、せっかく目指すべき「体験」があっても、同じようなキャラやシステムを作ってしまったらただのパクリになってしまうという意味です。
まとめ
「Sister Mosquito!」の開発を例に、ゲームプランナーとして企画に参加した話を書いてきました。この他にもエフェクトを派手にしてアトラクション感を増強したり、敵のHPや武器の攻撃力をしっかり調整して絶妙な難易度にしたりといったこともやりました。
※このゲームは冬コミ頒布やSteam配信も予定しています!続報をお待ち下さい!
開発していたゲームが「なんか微妙」な時、なんとなく思いつきでキャラを増やしたり、なんとなくやり込めそうな要素を足してみたり……迷走したらツラいし、最悪無駄になってしまうかも知れません。
もしゲームを開発する機会がありましたら、この記事にあるような「体験を中心に考える」ということを頭の片隅に置いておいていただければと思います。
こういった記事も面白いと思います↓
長文失礼いたしました。
明日の記事はRébecca Missillier氏のビッグバンド・ジャズについてです。お楽しみに!