MIS.W 公式ブログ

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ファミコンにおけるサウンドの出し方とその制限【カウントダウンカレンダー2022冬10日目】

皆様こんにちはこんばんは、56代MIDI研の銃ねこです。

サウンドは好きでしょうか?昔のゲームなんかでよく使われるあの音です。ピコピコサウンドを使っている最近の曲は、(マイマイマーとしては)例えばこれ。

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ボーカロイドを用いた曲で有名なPはsasakure.UKさんがいますね。

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無機質ながらどこか可愛げがあって非常に特徴的ですよね。近年ではチップチューンと呼ばれることもありますが最もよく聞く呼び方としては「8bitサウンド」というのが多いのではないのでしょうか。これはこの音源が使われた時代のゲーム機のCPUが8bitだったことが由来であるといわれています。そう、ファミリーコンピューターの時代です。

出典:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=1799418
この記事ではファミコンにおけるサウンドの出し方を紹介していきます。8bitサウンドを用いた作曲だったり、ファミコン風のゲームを作ったりする際のヒントか何かになればいいなと思います。

ファミコンに搭載されていた音源

ファミコンにおける音源チップは、PSG音源(Programmable Sound Generator)と呼ばれます。音を作り出す電子回路の一種です。(狭義にはファミコンに用いられたものの祖先となる製品のみをさすのですが割愛し、ここではファミコンにおける仕様をもとに解説します。)これの持つ機能としては、

  • 矩形波(パルス波)発生装置 2ch 
  • 三角波発生装置 1ch 
  • ノイズ発生装置 1ch 
  • DPCM  
  • ミキサー

以上です。これだけ。シンセサイザーを使う人なら見慣れた単語もありますが、そうでなければなんだかよくわかりませんね。

DPCMとミキサーは無視しても大丈夫ですが、重要なのは上の3つです。ファミコンは、矩形波×2、三角波×1、ノイズ×1の計4つの音の組み合わせで、音楽だけではなくゲーム内におけるすべての音を表現しています。

矩形波というのはこんな音。

ザ・ピコピコ!っていう感じの音ですね。BGMにおいてはメロディを担当することが多いです。

三角波というのはこんな音。

矩形波に比べて少しこもっていますね。BGMにおいてはベースライン(低音部)を担当することが多いですす。

ノイズというのはこんな音。音量注意!

これだけだとただの雑音ですね。これらは基本的にもっともっと音を短くして活用されます。BGMにおいてはドラム隊やリズムを担当することが多いです。

これら4つの音にエンベロープ機能で音量変化を起こして音の演出をしていたわけですね。

エンベロープ機能について

せっかくなので、エンベロープについて解説します。エンベロープとは、簡単に言えば音の大きさを描いたカーブのことです。これをいじくることで音量の変化を管理しています。一般的には「アタック」「ディケイ」「サステイン」「リリース」(ADSR)の4つで構成されます。

出典:楽電子事業協会「MIDI規格書 1.0」

ピアノで例えて説明しましょう。

アタックとは、鍵盤をたたいた瞬間に出る音です。「コン!」という感じの打鍵音とともに、ドレミファソラシドの音が鳴りますね。この瞬間を切り取った音がアタックです。(ファミコンにおいてはこれをいじっている音は少ない印象です。)もう少し詳しく説明すると、「音を出す!」という信号を受け取ってから最大の音量になるまでの時間のことをアタックといいます。アタックの時間を長くするとファ~ンといった感じの徐々に音が大きくなる音を作ることが出来ます。

ディケイとは、ドレミファソラシドの音を出してから、ペダルを踏んで音を伸ばす...の間の音です。わかりづらいですね。最大音量の状態から、ペダルによって伸びる状態の間の音といえばいいでしょうか。現実のピアノだと認識しづらい音かもしれませんね。正確には、最大音量からペダル状態の音量に移動するまでの時間のことです。

サステインはディケイと一心同体といえます。サステインはペダルを踏んだ状態の音量の大きさのことです。ディケイは時間でしたが、こちらは音量です。サステインを0にした状態でディケイを調節すると音が徐々に小さくなっていく音を作ることが出来ます。

リリースは鍵盤から指を放した後、ペダルを踏んで消えていく音のことです。サステインで決めた音量が、0になって静かになるまでの時間を決めます。

チャンネル数の少なさによる問題と実際の例

ここで聡明な方は疑問が生じたのではないでしょうか。

「一度に4つしか音を出せないなら、どうやって音楽と効果音を両立させるの?」

答えは簡単で、できていませんでした。合計で4つのチャンネルしかないせいで、ジャンプや攻撃などのSEを出すときはBGMに用いていたチャンネルを借用する必要がありました。

例を見て(聴いて)もらったほうが早いでしょう。世にも有名な、マリオブラザーズを例にします。↓はスーパーマリオブラザーズのプレイ動画です。特に音楽に集中して視聴してみてください。

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どうでしょうか?ジャンプしたときやコインを取得したとき、BGMの音が削れていませんでしたか?特にステージをクリアしたときのBGMなんて、スコアカウントの音が入ってるせいで最後の1音が「ペー↑♪」ではなく「ペー↓」って感じになってますね。(伝わってほしい)

これらは効果音用に音源のチャンネルを割いた結果です。本来、例えば1-1のBGM「地上BGM」ではメロディに2音、ベースラインに1音、ドラムに1音使っているのですが、ジャンプしたりクリボーを踏んだりするたびにどこかしら1音なくなっています。これを極力防ぐために、多くのファミコンのゲームは同時に長い時間効果音がなったり、そもそも過剰に効果音がなったりすることが無いようにデザインされています。

この仕様を考慮せずに作った結果、公式に発売されていないにもかかわらずネタにされて後世まで語り継がれてしまったゲームがあります。「チーターマン2」です。

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そもそもこのゲームは音以外にも不備がありすぎるのですが、割愛します。(調べてみてね) 敵の撃破時に出るSEの音数が多すぎてBGMがほぼ完全に途絶えたり、なぜか2面以降からはジャンプに「ビィン」という効果音が付いたりと、とにかくBGMを圧迫するようなSE設計になっています。...なぜあの敵撃破の効果音でBGMが止まるのかは正直よくわかりませんが。これを見た後だと、スーパーマリオブラザーズがいかにうまく音設計をしていたかわかりますね。

さて例の紹介としては最後になりますが、このファミコンの音源の仕様を踏まえたうえで完璧に作曲をした天才がいます。すぎやまこういち先生です。ドラゴンクエストシリーズの作曲家ですね。

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有名な人ですので名前ぐらいは聞いたことあると思いますが彼は格別です。ドラゴンクエスト1におけるBGMのほとんどをたったの2音だけ(2チャンネルだけ)で作り上げてしまいました。メロディとベースだけですね。また、本来ドラムなどとして使うノイズを一切使わず、戦闘時の効果音用に残しておいたりしています。MIDI研ならば↑の動画の多くの曲が2音だけで作られていると聞いただけでわかるのではないでしょうか。

メロディとベースのみの楽曲はゲーム業界には少ないということは、なんとなくわかると思うのですが、ドラゴンクエストのBGMはこれによって非常に特徴的な音楽となりました。知名度もありますが、ドラゴンクエストのBGMを聞くと「うわ!超昔のゲームって感じの音楽だ!」という感想になると思います。ポケモン赤緑の音楽と比べるとより顕著に感じられるはずです。ポケモンの場合はメロディーとベースに加えてメロディに追随したり、伴奏の役割を担う音があるのですが、ドラゴンクエストはそれがありません。最低構成の音楽で音数が少ないため、音がなっているにもかかわらずどこか静粛を感じるのが最大の特徴でしょう。

これを踏まえると現代のチップチューンと昔の8bitゲーム音楽は全く別のジャンルであると言えます。ピコピコサウンドをモリモリにして表現する現代チップチューンはファミコン時代の音楽にあった静粛の感じを再現しているわけではなく、飽くまで楽器の一つとして利用していることがわかっていただけると思います。ゲームっぽい印象を受けるチップチューンですが、原点的なところまでたどるとその実、音色以外にそこまで関連はないんですね。

おわりに

チップチューンを作るうえではそこまで気にすることではないのかもしれませんが、それでも作曲したい曲次第ではこの知識があるとないとで楽曲の立体感?存在感?が変わってくるかもしれません。

また、レトロ風のゲームを作る際のひと工夫にもつながってくるはずです。ファミコンより後の時代となると当然マシンスペックが向上してこのような制限はなくなっていくのですが、ことファミコン時代においては音全体がたったの4音で構成されていることを念頭に入れてゲームの制作を進めると、リアリティが出るかもしれませんね。

この記事が何かしらの参考になれば幸いです。あと、チップチューンの曲作ってる人誰かぼくのTwitterに送り付けてください。よろしくお願いします。

明日の記事は57代の旬の筍と菊を食うさんです。

参考文献

Wikipedia「PSG音源」 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/Programmable_Sound_Generator 音楽電子事業協会「MIDI規格書 1.0」 https://www.google.com/url?sa=t&source=web&rct=j&url=https://amei.or.jp/midistandardcommittee/MIDI1.0.pdf&ved=2ahUKEwjD1Lr6zYD8AhWa62EKHX5yAdEQFnoECC4QAQ&usg=AOvVaw01npPzi4WzjPt4-I3d9ffv 「PSG音源」と「ファミコン音楽」について https://andy-hiroyuki.hatenablog.com/entry/2015/03/17/194028