その年の問題は私の得意分野ばかり出題されていた。特に苦手な古典で、直前に見ていた通信教育の予想問題がドンピシャに当たった。英語のリスニングはチリの望遠鏡についての話。私の専攻したい分野、宇宙物理に関わる話題だった。事前知識は誰よりある。羽田空港へ向かうモノレールで、滑り止めの合格を横目に見ながら、第一志望の合格を半ば確信していた。 本当に合格したらどうしよう。 一人暮らしは下北沢がいい。ここは譲れない。 必修の第二外国語はどうしようか。宇宙に強いといえばロシア。じゃあロシア語にしよう。 サークルは知り合いがたくさんできそうな、大きなところがいいかもしれない。 でもこれはクラスでできるであろう友達と話し合って決めるのもいいかもしれない。 「あなたは頭がいいから」なんて勝手な理由で偏見と妬みを押し付けてくる人なんていないんだろう。なんてったって最高学府。自分より上なんて掃いて捨てるほどいる。 地元へ帰る飛行機から、真っ暗な空を浮かれて眺めた。次はきっと、片道切符。名付けるならば、上京だ。
そして、2015年3月10日、東京大学に落ちた。
現実感のないままに唯一滑り止めに受けていた早稲田大学への進学を決めたのは、その日の夜8時ごろのこと。浪人は考えていなかった。もうそんな気力がなかった。そんな悔しさもなかった。良い意味でも悪い意味でも、全力を出し切りすぎた。今にして思えば、あれが燃え尽き症候群というやつだったのだろう。 燃え尽きた灰はふと思った。 早稲田で宇宙物理ができるかどうか、調べてない。 私、何のために大学行くの? 結局不合格の絶望に浸ることも進学の希望に舞うこともできないまま、上京。他人事みたいな引っ越し。そこに挟まれるワセダダイガクへの招集。ガイダンス?クラス分け?なるほど自分はどうやら基幹理工学部という学部に所属するらしい。1年時はクラス分けされた共通課程で、2年時に進学振り分けなるものがあると。進学振り分け。頭をよぎる不合格。それを振り払い、西早稲田キャンパスへの初登校。大丈夫、早稲田だって私学の雄。きっと大して変わらない。そう思わなきゃやってられない。 そうしてやってきた大学で、立ち尽くす。キャンパス内にあふれる、人、人、人。それが一斉に駆け寄り、ビラを押し付けてくる。掲げられた色とりどりの看板から、私はそれがサークル勧誘なるものらしいことを察した。 帰りたい。 その中の一人が私に尋ねた。 一般?内部? 私は答える。東大落ちです。 瞬間、彼女の私を見る目が変わった。 すっごい!じゃあ頭いいんだね!! もう帰る。
というわけで改めまして、はじめましての人は初めまして。そうでない方はこんにちは。アドベントカレンダーの最終日を担当させていただきます、MIS.Wの幹事長、CHO-CHIです。ちょーちって読みます。普段はMIDIをやったりCGをやったり表裏でラーメンを食べたり表裏でラーメンを食べたり........基本的に表裏でラーメンを食べています(表裏って!?という方はアドベントカレンダー11日目を読んでみよう!) 閑話休題。 ここまでお読みいただいた方はお気づきでしょう。MIS.Wの文字も、創作の文字も、さらにいうならその片鱗すらもないことに。 そう、お恥ずかしながら当時の私に創作サークルへの入会などという選択肢は存在しませんでした。CDを買ってそれを聞いたり、漫画の絵に憧れて教科書の隅に顔だけ落書きをするような、ごく普通の「消費者」でした。昔懐かし日本の限界集落ですくすくと育まれた、昔懐かし創作者やオタクへの偏見だってしばらく抜けませんでした。今でもはっきりと覚えています。ビラを配っていたサークル員の先輩にわけもわからぬまま連れられたブースで、興味のある分野について尋ねられたとき。絵を描くことが好きです、って、その一言がどうしても言えませんでした。本音を言えば、曲を作りたくて、絵を描きたくて、何かを創りたくて入ったわけじゃないんです。プログラミングは難しそう、絵を描くなんて言えない、余ったのがMIDI研だった。MIDIの何たるかも知らないまま、じゃあこれ......とブースで指さしてしまったのが始まりです。そしていま、そんなサークルの幹事長をしているのですから、人生何があるかわかりません。そもそも本命の大学に受かっていたらMIDなんて一生知らなかったでしょう。デジタルイラストを描こうなんて露ほども考えていなかったかもしれない。「消費者」のまま、ゲームや創作に少しだけ偏見を抱きつつもその旨みを甘受していたのでしょう。でも、それ自体は別に悪いことではないと思っています。偏見ってそう簡単には取り除けないし、もし私が一生ゲームや創作の世界に触れなかったところで、何かが変わるわけではない。曲を作らなくても、生きていける。絵を描かなくても、生きていける。ゲームなんて、無くても生きていけるんです。
この記事を読んでくださっている方は多かれ少なかれ創作活動をしている方、創作に興味のある方が多いでしょう。そして創作をする理由も人それぞれなんだと思います。物心ついたときにはペンを握って絵を描いていた、あの曲、あのゲームに憧れて、あんなのを自分も作ってみたくて、褒められたくて、悔しくて、ただ、なんとなく、流されて。 このサークルは、そういう人の集まりです。創作をする理由もみんな違うし、創っているものも違う。そういう人たちが集まって、人生においては重要度のさほど高くないであろうゲームを創っています。それを見ると、人生の夏休みたる大学生活で何かに打ち込む理由なんてなんでもいいのかなと思ってしまいます。なにかを始めるのに、理由って思った以上に必要ないです。だって流されるように創作の世界にうっかり飛び込んでしまった私がいままで続いているから。
なぜ創作をするのか、私自身もまだ分かっていません。多分まだまだ分からないままです。いまはその「分からない」が楽しくてここにいます。「はじめから」も、「つづきから」も、どちらでも楽しい。ゲームってそういうもので、MIS.Wはそういうサークルです。
大学に入って何かを始めたいと思った方、何かを始めることにハードルを感じている方。その「やりたいこと」「始めたいこと」が何であれ、飛び込んでみてほしいと思っています。そして、もし「やりたいこと」の発現の場としてMIS.Wというサークルを使えるなら、ぜひ飛び込んできてください。サークル員全員で受け止めます。
ようこそ、MIS.Wへ。
2017年4月16日(MIS.W創設記念日) 幹事長 CHO-CHI