MIS.W 公式ブログ

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初中級ジャズコード理論

はじめに

 初めまして、MIS.W 53代 MIDI研のRébecca Missillierと申します。

 先日の研究発表会にて発表した新曲「Mosaïque」をSoundCloudに投稿したところ、予想を大きく上回る好評をいただきました。

  感謝の意を込めて、この曲のコード進行の解説を通じて、私が学んできた基本的なジャズコード理論の知識を共有させていただこうと思い、寄稿いたします。

 

 

基礎知識

スケールと調の概念

 コードはスケールから音を選んで組み立てられており、コードの基礎の理解にはスケールについていくらかの理解が必要となります。

 C・D・E・F・G・A・B(・C)の音の並びを「Cメジャースケール」といい、楽曲がこのスケールに基づくことをCメジャー : C調であるといいます。明るく据わりの良い印象を受けると思います。

 A・B・C・D・E・F・G(・A)を「Aナチュラルマイナースケール」といい、楽曲がこのスケールに基づくことをAマイナー : Am調であるといいます。こちらは暗く切ない印象を受けると思います。

 C調とAm調は、雰囲気こそ違えども構成音は同じです。このような関係の調を「平行調」といいます。そして、CメジャースケールをC/Am調の「ダイアトニックスケール」といいます。

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 では、F・G・A・B♭・C・D・E(・F)はどうでしょうか。高さは違うがCメジャースケールと同じものであるという印象を受けるのではないかと思います。この音列をFメジャースケール、楽曲がこのスケールに基づくことをFメジャー : F調であるといいます。ところが、同じ印象を受けるとはどういう意味なのでしょう。

 FメジャースケールはCメジャースケールの各音を5半音ずつ上げたものです。音列や和音は、全体を同じ量ずつ上下させてもその雰囲気を保持することができます。この移動を曲全体で行う場合「移調」、曲中の一部で行う場合「転調」といいます。ジャズは一般的に転調を極めて多く用いる音楽です。

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 調はメジャーとマイナーで各12個/計24個、12個の平行調が存在することになります。そこで、Cを始点とする調はC調とCm調の2つが考えられます。このような関係の調を「同主調」といいます。

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 24個ものスケールを頻繁に行き来していると、徐々に混乱してきます。そこで、度数を用いて1つの形で表し、任意の調に対応させます。

 以下にメジャースケールとナチュラルマイナースケールを度数で表記したものを示します。

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 なお、マイナースケールにはコード進行の帰結感を補強するために用いられる「ハーモニックマイナースケール」が存在し、その度数表記は以下の通りです。

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基本的なコード

 次項以降の予備知識として、以下に基本的な4音構成のコードを、□をrootとする度数で示します。 

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ダイアトニックコードとその代理

 「ダイアトニックコード」とは、コード進行の基礎であり、ダイアトニックスケールから、1音ずつ飛ばして3または4音を選んで重ねたコードです。ジャズでは4音構成以上のコードを扱うことが圧倒的に多いため、ダイアトニックコードも4音構成のものが多用されます。 

 転調の便宜を図るために、ローマ数字で覚えておくのが良いでしょう。この記法を「ディグリーネーム」といいます。C/Am調におけるダイアトニックコードとディグリーネームの対応は以下の譜例の通りです。

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 さらに、これらは役割によって、メジャー調では以下のように分類されます。
   トニック   [安定]   : Ⅰ▵7, Ⅲm7, Ⅵm7
   サブドミナント[一時安定] : Ⅱm7, Ⅳm7
   ドミナント  [不安定]  : Ⅴ7
 マイナー調では以下のように分類されます。
   トニック        : Ⅰm7, ♭Ⅲ▵7, ♭Ⅵ▵7
   サブドミナント     : Ⅱø, Ⅳm7
   ドミナント       : Ⅴ7
 なお、マイナー調の場合ドミナントに本来ダイアトニックコードでないV7が用いられますが、これは先述したハーモニックマイナースケールを用いているためです。

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 ダイアトニックコードは、この役割の中でほとんど自由に代替が可能です。
 また、構成音の似た別のコードによって置き換えられる場合があります。以下に代表的な代替を挙げますが、このほかにも臨機応変に置き換えが可能です。

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 特に最後の例について、ドミナントを置き換えた先のコードを「置換ドミナント」といいます。この置き換えは、Ⅴ7の構成音の中でとりわけ不安定である第三音と第七音(譜例のG7において、第三音Bと第七音FはそれぞれトニックC▵7のCとEと隣り合わせになっており、これらへの進行を強く促しています。)が、♭Ⅱ7にも共通して存在していることによって成立しています。

 

Ⅱ-Ⅴとセカンダリードミナント

 ジャズの常套句的なコード進行は、Ⅱ-Ⅴ(-Ⅰ)進行です。C調では「Dm7 - G7 (- C▵7)」、Am調では「B ø - E7 (- Am7)」の定型で用いられます。f:id:rbcaislir43:20180710150408p:plain

 Ⅱ-Ⅴ(-Ⅰ)進行は本来強い帰結感を演出する進行ですが、ジャズにおいてはそれだけではなく、さらなる展開の足掛かりとしても用いられます。以下の例をご覧ください。

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 前半の2つはC▵7へのⅡ-Ⅴであるはずですが、C▵7ではなくEøに進んでいます。では後半の2つに目を向けてみると、これはDm7への、すなわちDm調でのⅡ-Ⅴになっています。そして反復記号によって目論見通りDm7に着地します。以下にDm調におけるダイアトニックコードを示します。

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 このように、ジャズにおいては、他調のⅡ-Ⅴが、ほとんど何の脈略もなく積極的に出現し展開します。このように出現するⅡ-Ⅴの特にⅤを、「セカンダリードミナント」といいます。

 さらに、セカンダリードミナントも置換ドミナントに変更が可能です。こちらが先ほどの例において置き換えを施したものです。

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 この置き換えによって、3,4と反復後の1小節目において、ベース音をE→E♭→Dと滑らかに接続することができました。

 

テンションの付加

 ジャズらしさを高めるために重要なのが、コードへのテンションの付加です。ジャズの楽譜には4音構成のコードが記されていることがほとんどですが、そのまま演奏することはめったにありません。さらに緊張度の高い音を付け足し、演奏を絶えず煽っています。特に9thを付加することについては、ほとんど無意識的に行われています。以下に構成の例を挙げます。

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  コードの選定段階においては、これらは慎重に選ばれるべきでしょう。しかしながらアレンジの段階においては、積極的に使用することでジャズらしさを際立たせる効果的な手段です。

 

実践楽曲分析

 ここからは実際に私の楽曲「Mosaïque」を取り上げ、コード進行の解説をさせていただきます。この曲はB♭mという複雑な調であり解説に非常に手間がかかるため、全体をAmに移調して紹介いたします。こちらが実際に採用したものです。

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A

 Aは4つのコードの繰り返しで構成されています。印象を決定づけるのはベースのA→G→F→Eという下降の順次進行ですが、2小節目のコード進行はAm9へのⅡ-Ⅴです。

 部分転調は使われていませんが、2つ目のCmM7(on G)だけはダイアトニックコードではありません。これは、ストライドピアノのフレーズを作った際に自然とE→E♭→Dという流れが成立したので、コードをこちらに合わせてダイアトニックコードC▵7のEをE♭に変更したためです。ちなみに、このE♭は「ブルーノート」といわれるジャズらしさを引き立てる音程です。f:id:rbcaislir43:20180710151553p:plain 

B

 Bには精一杯アイディアを詰め込んでいます。まず、最初の4小節に初めにあてたものがこちらです。

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 トニックから始まり、1,2小節目は3小節目のGm7に対してのⅡ-Ⅴ(正確にはAøですが、ここではトニックAm7で始めることを重視して、断りなく置き換えています)、さらに3,4小節目は5小節目のF▵9に向けたⅡ-Ⅴになっています。以下にGm調とF調におけるダイアトニックコードを示します。

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 まず、4小節目をC7sus4→C7と分割して繋留感を出すことを考えました。ここでC7sus4に生じたFに対して効果的な♭13のテンションA♭を付加し、Gm7にも適当なテンションを加え聴き映えを整えました。

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 次に、Gm11を置換ドミナントD♭7に差し替えようとしたのですが、既に思いついていたメロディがこれに合わなかったためこの案は取り下げ、分割してベース音だけを持ってきました。この際、D♭と不協和音になるテンションを取り下げています。

 次にGm11から見たⅤであるD7に、♯9,♭13→♭9,♭13のテンションを与えました。これは私の個人的なお気に入りのテンションです。Gm11のDに向かって、F→E♭→Dの流れを作っていますし、Aに向かってB♭→Aの流れを作ります。これに合わせてAm7にも適当なテンションを付加しました。最後に、メロディが上に上がっていくものだったので、あえて下降のベースラインを添えました。

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 5~8小節目のもとになっているのは、お洒落なポップスなどにも使われるⅣ-Ⅲ-Ⅵ系の進行です。直前のC7♭13のテンションA♭を受けて、F▵7に半音下のGを乗せて流れを作り、F▵9としました。後半は一捻りして、9小節目のDm7に向けたⅡ-Ⅴになっています。

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 ここは最後にメロディを付けたのですが、それまで面白いことが浮かばず白紙であったので、挑戦的なコード進行を乗せています。F▵9のEから半音ずつFm69のDに動かすことを考え、この間にF9を挟みました。

 EøをEm9に変えたのは、まだ強い転調感を押し出したくなかったので、ダイアトニックコードに近付けました。

 最後の小節には置換ドミナントを仕組んでいます。派手なテンションに見えますが、実際はAマイナースケールの内にあるEとAであり、むしろ調性感を繋ぎ留める役目を果たしています。これに合わせる形でA7にB♭を付加しました。これは置換ドミナントの構成音でもあり、コード間の接続をスムーズにしています。

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 後半9~16小節はひとまとまりです。まず、直前のⅡ-Ⅴを受けたDm9からC▵9へⅡ-Ⅴ-Ⅰで一旦落ち着かせて、直後の驚くべき展開を際立たせています。テンションは聴き映えを確認しながら適切なものを選びます。G7を分割しているのは、C▵9のGに向かってE→D→Gの流れを意識したものです。

 12小節目が最大の見せ場です。突然非ダイアトニックコードであるBm7へのⅡ-Ⅴ-Ⅰを挟みました。ここで部分転調感が極まっているはずです。この流れは単なるひらめきというよりは、メロディのアイディアと並行して組み上げました。その一部を括弧書きで示しています。

 そのあとはAのトニックに向けてのⅡ-Ⅴで締めています。テンションは先ほども使っていた、お気に入りの♯9,♭13→♭9,♭13です。Am9のEに向かってG→F→Eの流れ、Bに向かってC→Bの流れを作っています。

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終わりに

 私が初めて購入した音楽理論の本には、2010年と記されていました。地元の図書館に通って何度も延長して、ついに購入した本だったのを覚えていますが、ついこの間、作曲を始めた後輩に譲ってしまったのでした。彼の役に立っていればいいのですが。

 それはともかく、独学を続けてもう8年近く経とうとしていることに驚くばかりです。まだまだ勉強中ですが、他人に伝えるように文字に書き出すことで再帰的に学び直すこともあるかと思い立って、このような基礎から現在やっていることまでを縦断的に繋げた文章を書きました。

 コードアレンジは自由です。いくつか選択肢が並んだり、理論的でも気持ちよくなかったり、逆に上手く説明はできないけれど何となくいい流れが湧いて出てくることもあります。この文章にはいくつも飛躍した説明もあったかと思いますが、これは言語表現の限界ではなく実際飛躍しているのだと思います。最終的には理詰めにならずに感覚で選び取るのが良いのだと思っていますし、突飛な転調やテンション感は、楽譜を見ているだけではなくたくさん聴くことで身についていくものだと感じています。私もまだまだ学ぶべきことがありますし、いつかこの記事を読み返して、付け足したくてうずうずしてしまうことを夢見ています。

 質問や間違いの指摘はTwitter等で受け付けております。

 最後に、私がこれまで読んで学んだ書籍をいくつかと、私的に感動した名盤を挙げておきます。

   宮脇俊郎「最後まで読み通せるジャズ理論の本」リットーミュージック,2010年

   杉山泰「リハーモナイズで磨くジャンル別コード・アレンジ術」リットーミュージック,2011年

   納浩一「ジャズ・スタンダード・バイブル」リットーミュージック,2010年

   北川祐「ビッグバンドジャズ編曲法」きゃたりうむ出版,2013年

 

   Buddy Rich - The Roar of '74

   Count Basie - Straight Ahead

   納浩一 – 三色の虹

   鷺巣詩郎 - The world! EVAngelion JAZZ night = The Tokyo III Jazz club =

 

 これを読んでくださるどなたかにとって、実りある学習の手助けとなることを願っています。ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

 

Cordialement,
Rébecca Missillier